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2005年7月24日

「スナックあをぞら」その4の2

いらっしゃいませ!

トイレ……トイレ貸してくれよ……

あっ……そうですか……
トイレなら奥を進んで左手にありますけど……

ありがとう……

きつくドアが閉まる音がした。

溜息をついたまま何もする気が起きない自分がいる。
普通なら突き出しとおしぼりくらいは用意するのに……

軽快なサルサのリズムに
気を紛らわせるのが精一杯だった。

んっ?

……って出てこないじゃない!

テープの音がなくなり
ふと我に返った。

ちょっと……どういう事なの!

あたりが暗くなるにつれて
私の態度は大きくなっていく……
そうでもしないと
こんな商売やっていけないから。

また現実逃避に耽る……

店には色んな人が来るわ……

話すのが楽しい人
私を口説きに来る人
ちょっと安全な場所で暴れたい人
愚痴りたい人

全て高いテンションで
何とか捌いてきた。

店のシャッターを閉め
出かかった陽の光を浴びると
何かが切れたかのように
体が崩れ落ちそうになる。

何とか体勢を保って
なだれ込むようにタクシーに乗り込み
ベッドにそのまま
倒れる毎日だ。

夢は見ない。

酷く酔っぱらうと
ついつい愚痴ってしまう。

夢なんて贅沢してる人が見るものよ!

誰も信じてくれない……

その言葉を口走った途端
顔が紅潮してしまう。
酔ったんだと勘違いされたくないから
レジで残金を確認するフリをして
死角に逃げ込んでは
深い溜息をつく

結局私は独りなのね……

……ってまだ出てこないの???

乱暴な足取りでドアの前に立った。

トントン
あの……いかがされました?

反応がない。

顔がみるみるうちに
紅潮する。

ドンドン
困るんですけどっ!
そんなに長い間居座られると!

乱暴にドアが開いた。

あっ……ちょっと寝てたんだ……

男は平然とした顔で呟いた……
何を勘違いしたのだろうか
必要以上に
ありもしない髪を掻き上げている。

お酒……もらおうか……

つまらないテレビドラマのワンシーンを真似たのだろう。
自分で一番の笑顔を作ったつもりだろうが
薄ら笑いになっていて
余計に寒気がする。

縫い目が雑ね……
スーツは2万円台といったところね……
歯茎はタバコのヤニで真っ黒だわ……
うわっ!息が臭い!
何なの?安そうなデジタル時計は……
金メッキが剥がれてるじゃない!
これは1,500円ってところね……

品定めが一通り終わった。

カウンターに案内する間
スーツにはめられた
社章をかたどったピンバッジを確認した。

妙に反射するわ……
ロクな会社じゃないわね……この人……

脳内レジで
1時間半後の精算金額が
既に表示されていた。

まぁ……5,500円ってところよ……


※※※※

草臥れた靴の臭いを嗅ぐなんてミックジャガーの皺より哀れね

※※※※

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