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2005年7月 9日

「スナックあをぞら」その4の1

カウンター横の
レジの残金を確認したら
目線を上げて照明のツマミを
反時計回りにゆっくりと回す。

丁度8時……
ここは外さなかったわね……

何とも言えない安堵感。

暗転とともに登場してきた
スポットライトを浴びて
乱反射でソファーは仄かに輝き出した。

浮ついていた心も
ようやく落ち着いてきたようね……

さぁ始めましょう……

視線を落として
カセットデッキの再生ボタンを押した。

そうそう
お客さんが来る前に

「ヨシたん 渾身のベストヒット!!!」

を最後まで聞かなきゃね……

今時すっかり見ない120分のノーマルテープの
残量を確認しながら
ヨシたんが昨日思い出したように
殴り書きしていったルーズリーフのメモを眺めていた。

ヨシたんは相当酔っていたからねぇ……

半分以上の文字が
ヨシたんが持ち込んだテキーラの勢いと
軽快なサルサに乗せられて

踊り過ぎていて解らないじゃない……

ヨシたんはここ数年来足繁く通ってくれている。
酔っぱらいたくなると
テキーラとカセットテープを持って
ブラジル代表のユニフォームを着て店に現れる。

ブラジルは心の故郷なんだそうだ。

最近のセレソンはさぁ……

愚痴り始めると同時にテキーラを浴びている。
隣で友達のキューちゃんが切り返す。

けどこのカセット
サルサしか入ってないじゃん!
あれはキューバだろ?

いや
ロナウドのドリブルがさぁ……
彼の前にボールが出るとね……
何か足下に吸い付いたように
踊り出すんだよぅ!!!

それを見るとさぁ……
サルサなんだよね!サルサっ!!

要は酔ってハッピーになれば
酒の種類はどうでも良いのだ。

洋酒を持ち込まれるのは本来ルール違反だが
ヨシたんだけは例外だ。

ヨシたんのおかげで
イケメンを鑑賞する機会に出会えたからだ。

ちょっと前まではロベルト・カルロスだったけど
今ではすっかりカカに夢中!
丹精な顔つきの色白な青年にボールが回ると
すっかり言葉を失ってしまう……。

いっそ来年からスポーツバーに模様替えしようかしら?

そんな冗談で会話が盛り上がる。

昨日の会話をリプレイしながら
テープは
撓みでゆっくりと微かな反射を繰り返しながら
私を癒してくれる………

今日はお客さんが来なくても十分満足……
本当にヨシたんは楽しい人ね!

開店前の鬱屈とした胸の曇り空が
サルサのゆるいリズムで氷解していこうとしている。
もうすぐ日差しが差し込んできそう……

まさにそんな時

一転してどんよりとした雲が襲ってきて
落雷が襲ってきた。

我に帰って入り口のドアに視線を移した。
思わずキツネ目になる。

いらっしゃいませ!

心の中で

そのままドアを閉じてどっかへ行って頂戴!

と強く叫びながら……。

トイレ……トイレ貸してくれよっ!

そんな心の叫びはあっさりと無視された。

(続く)

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